2010年04月05日

就“職”活動

就活

こんにちは。

茂木健一郎さんのクオリア日記におもしろいエントリーがありましたので、全文を引用してみます。
例によってcoldsweats01、かなり長いですが・・・。

--------------引用開始--------------

ギャップ・イヤー

 東京の某所のカフェで、仕事をしていた。たくさんやらなくてはならないことがあって、ちょっとあせっていた。

 ふと顔を上げると、ヨーロッパから来たらしい青年が、前のテーブルに座っていた。バックパックを背負い、真剣な顔をして本を読んでいる。その本が、Roger PenroseのEmperor's New Mindだったので、思わずはっとした。

 ちょっと背伸びをするふりをして、テーブルを立って、滅多にそんなことはしないのだけれども、声をかけてみた。

 「こんにちは、失礼ですが。ペンローズを読んでいるんですね?」

 「ああ、はい。」

 「学生さんですか?」

 「いや、そうではありません?」

 「旅行中?」

 「はい。去年、大学を卒業ました。」

 「どこの大学を出たのですか?」

 「ケンブリッジ大学です。」

 「ああ、ぼくもケンブリッジに留学していました! 何を専攻していたんですか?」

 「物理学です。」

 「じゃあ、ぼくと同じだ! 今は、何をしているんですか?」

 「さあ。世界中を旅して、ボランティアをやったり、言葉を勉強したり。」

 ぼくの中で、ひらめいたものがあった。

 「あなたはギャップ・イヤーをとっているんですね!」

  「そうです!」

 「ギャップ・イヤーが終わったら、どうするんですか?」

 「さあ。大学院に行こうと思っていたけれども、今は、働こうかなと思っています。イギリスに帰ったら、探しますよ。」

 「大学に入る前にギャップ・イヤーをとる人が多いと聞いていたけれども、大学を終えてからとる人もいるんだね。」

 「人によると思います。人生で何を求めているか、それと、経済的に可能かどうか?」

 「大学を出てすぐに仕事につかないと、なかなか仕事が見つからないということはないですか?」

 「いいえ。なぜそんなことがあり得るのですか?」

 「いや、履歴書に穴が開く、とか、そういうことは言われない。」

 「穴? どういう意味ですか? ギャップ・イヤーの間に、いろいろ経験を積むことが穴? だとしたら、その穴は、とても生産的な穴でしょう。」

 ちょうどその時、カフェの横を、リクルートスーツを着た女の子が三人で通っていった。

 「日本ではね・・・」

 「日本では?」

 彼が、真剣な顔をして聞いている。

 日本では、大学の三年から就職活動をして、それで就職できないと企業がとってくれない。「新卒」で就職するために、わざわざ留年する人もいる。そもそも、女子学生で、就職活動をしている人はすぐにわかるんだよ。みな同じ格好をしているから。別に、法律で決まっているわけではない。なぜか、すべての企業が同じふるまいをしているんだ。日本人は、みな一斉に事をやるのが好きなんでね。それで、学生がそれに合わせる。もっとも、そんな画一主義はイヤだ、とドロップアウトするやつもいるけど。個人的には、そういうやつにこそ、新しい日本を作ってもらいたいと思う。ところが、マスコミがまたクズで、あたかも、新卒でいっせいに企業に就職することが、当然だ、というような報じ方をするし。それが、偽りの社会的プレッシャーとなって・・・

 そんなことを説明しようと思ったけれども、自分の愛する国の恥を、この真剣な顔をした青年にさらすのは、はばかられた。

 「狂っているよね。」(Mad, isn't it?)

 思わず、口から出た言葉。異国の青年が、いぶかしげに見ている。

 「狂っている?」(Mad?)

 自分が、失言をしたことに気付いて、顔が赤くなった。

 青年が、ぼくを見ている。「狂っている」と聞いて、何が狂っているか、と素朴な疑問を持つのは当然である。まさか、「日本が狂っている」と本当のことを言うわけにもいかない。

 とっさのひらめきで、話題を変えた。

 「ロジャー・ペンローズ。彼は狂っているよね。」
 
 「つまり、それは、面白い意味で狂っているということ?」

 「そう。あなたは、Emperor's New Mindをどう読みましたか?」

 「量子力学の観測問題のところなのですが・・・」

 それから、私と彼は10分くらいペンローズの話をした。
 彼の名前はティム。これから、フィリピンやタイを回って、7月頃にイギリスに帰るという。

 仕事をするにしても、これからのグローバル社会、多様な経験がビジネスに役に立つだろう。ティムのような若者が、新しい世界をきずいていく。

 ティムに別れを告げて、私は東京の街を歩き出した。桜があちらこちらに咲いている。たおやかで、優美なものを愛する日本。ティムにも、すばらしいものをたくさん見ていって欲しいと思う。

 日本は素晴らしい国だと思う一方で、「自分がもし今学生で、就職を考えていたら」と考えると、深い絶望にとらわれる。

 赤塚不二夫のマンガで、飼い犬が野良犬に、「こんな首輪がなければもっと自由に歩きたいんだ」と言うのがあった。ところが、飼い犬は、首輪がとれてしまうと、慌てて自分でもとに戻すのである。

 日本人は、いつから、自分たちをこんなに不自由にしてしまったのだろう。
 法律で決まっているわけでもないし、誰もそうしろなんて言っていないのに。

 インターネットに象徴される情報革命で、「ゲームのルール」が変わった。組織に「所属」する個人ではなく、クリエイティヴな個人がダイナミックに合従連衡することで、イノベーションが起こる。

 そんな新しい時代に、日本の社会は適応できていない。失われた10年が、20年になろうとしているのも当然であろう。デフレは、日本の社会のインテリジェンスの欠如の表れである。

 スズメが飛んでいた。一羽が、桜の枝に止まった。
 彼らは、好きなところに飛んでいく。野生というものはそういうものだろう。

 日本人は、いつから野生を失ったのか。
 ぼくは、果たして野生を持っているのか?

 日本にも、ギャップ・イヤーを導入することはできるだろう。それは、助けになるだろう。しかし、そのようなことが、外国から輸入される国と、自分たちの中で、内発的に、ごく当たり前のこととして出てくる国は、何かが根本的に違う。

 日本人は、これからの世界に向けて一体何を、内発的に生み出すことができるのだろうか。

 桜の花は、暖かい陽光の下で、満開を迎えていた。

--------------引用終了--------------

先日のエントリーにも書きましたが、日本の大学システムはもう世界的には通用しないようです。



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Posted by 百武塾 at 08:15│Comments(2)進路
この記事へのコメント
この「ギャップ・イヤー」を楽しんでいるヨーロッパやアメリカの学生に何度も遭遇したことがあります。
日本でも早く「普通なこと」になればよいと思います。
Posted by 百武 at 2010年04月06日 19:57
ウチの息子(第5子で長男)が今年4回生
いいお話を読ませてもらいました。
勉学には不向きな子で 就職は如何に?
自分にあった生き方を見つけてくれるよう祈ります 感謝
Posted by 樹の精 at 2010年04月05日 08:33
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